■前口上~基準は「日中晴天屋外」
環境光によって、服や持ち物の色が異なって見える…条件等色(メタメリズム)について説明してきた。衣類や持ち物だけではなく、空や木や草を含めたすべての物体の色が、それを照らす光~環境光に左右される。
我々を取り巻いている世界の見え方は、それらを照らす光の質によって必ずしも一意ではない、実に不確かな存在なのだ(まさに色即是空、空即是色)。
色の基準は既に説明したように《太陽光》であり、静止画でも動画でも太陽光に照射される状態が「色の基準」としてデザインや印刷の現場で基本となる。このことは写真や動画の世界だけではなく、日常生活にも影響を与えている。
衣類や持ち物などの「色の見え方」が、それを照らす光…環境光によって変わってくる。基準である太陽光は「日中晴天屋外」だということも、既に説明したとおり。
厄介なのは環境光の違いによって、同じ色が異なって見えたり、違う色が同じに見えたりする場合があることだ。生活の中では、《日中晴天屋外以外の環境光》で照射されることが多い…と言うか、基準である「日中晴天屋外以外の環境光」で照らされることのほうが多いだろう。
条件等色による色の見え方の違いは、撮影スタジオなどの閉鎖空間であればなくすことができる(=環境光を一定に保つことができる)が、買い物や仕事などで様々な環境光にさらされる日常生活では、常に環境光を同じに保つことは不可能だ。
日常の生活で条件等色※による「色の見え方の違い」をできる限り少なくすることを考えてみたい。
※条件等色~(光に照らされるという)条件によって、違う色が「等しい状態に」見える…ということであって、「同色」…同じ色に変化するということではない。「等」と「同」…音が似ているので混同しないよう注意を!
■服や持ち物などのコーディネート
環境光によってモノの色が変わって見えることが問題になる状況では、単に服の色とか小物の色といった「それ単体の色」にとどまらず、例えば上着ならそれに釣り合うスラックスやスカート、トップスに対するボトムズも色や柄の釣り合うものを選ぶことになる。
上着を選んだら、それに合うシャツなどを選ぶことになるし、バッグなどの小物もデザインを合わさなければならない。
外に出かけるなら靴の色も気にかける必要があるし、場合によっては眼鏡のフレームのデザインやゃ髪型、髪の色まで検討の対象になるかもしれない。
こういった服の組み合わせの他に靴やバッグなどの色、柄も考えることになる(そういう方面に無頓着ならそれで構わないが)。このような衣類に対する持ち物などの色、デザインの組み合わせを「コーディネート(coordinate)」と呼ぶことはご存知だろう。
■コーディネートの意味
コーディネートは単に衣服の取り合わせだけではなく、建物の外観、内装さらには公園や道路などのデザイン、配置など機能設計などにも使われる言葉であるし、地図上の位置~座標を表す意味もある。座標の場合は緯度と経度、異なる複数の指標(パラメータ)を用いて1つの位置を指す言葉だ。
一般にファッションの分野で用いられることが多いが、「座標」や「時と場所」、「目的と服装」のように「要素の異なるコトやモノを取り合わせる」ことを総じて表す。
条件等色の話題なので、今回は服と持ち物の色、デザインの話題に絞ることになるが、コーディネートという言葉からは単にファッションだけでなく、様々な取り合わせを意味する言葉だいうことを意識していただきたい。
※コーディネートという言葉には「どのようなデータをどういった計算に用いるか?」といった、プログラム設計での取り合わせの意味も含んでいる。
■条件等色を避けるコーディネート
デザインとして同じ色同士を取り合わせると安定感が生まれるが、全く同じ色、同じ素材で合わせる場合以外は、環境光によって異なる色に見えしてまう場合がある。これを避けるためには「同じ素材・同じ色」で揃える必要があるが、スーツの上下のように同じデザインで揃えることが前提ならともかく、そうでない場合は色の統一には無理が生じる。
素材やデザインが似ているようで細部が異なる~という状態では、かえってちぐはぐな印象になってしまう。
これを避けるには、同系色だけれど「あえて異なる色」を取り合わせたほうがよい。例えばベージュ、赤系の茶色、黒っぽい茶色…など、濃淡を付けたグラデーションで服、靴、持ち物を揃えれば、環境光が変わっても全体のデザインを統一できる。ただ同系色のグラデーションはセンスを問われるので、色の選び方に神経を使いたい。
もちろん本来の目的である仕事や買い物が主なので、ファッションだけに集中しすぎないよう注意したい。
仕事や買い物などで屋内の蛍光灯や屋外の太陽光など環境光が切り替わるような状態では、条件等色を意識したコーディネートを考慮しておきたい。
■光に騙される??
我々は物体を照射した光の反射を受け取ってモノを見ている。「見る」という行為には、モノを照らす「光」が必要だ。ということは、モノに当たった光の反射がなければ存在を認識できない…ということになる。
光は周波数によって色が変わる。物体からの反射光は、その物体の質や天候などの条件によって周波数が一定ではない。同じものを見ても、常に同じ色が反射されるわけではない。
これが条件等色の本質なのだ。コニカミノルタのWebサイトに、わかりやすい図が掲載されているので紹介しておこう。
▶条件等色の説明(コニカミノルタのサイト)
https://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/section3/05.html 他にも詳しく解説しているサイトがあるので、「条件等色」「メタメリズム」などのキーワードで検索すればさらに突っ込んだ科学的な解説が得られるはずだ。
※現在はコニカミノルタではカメラ事業から撤退しているが、2000年代初頭には有名なカメラメーカーだった。フィルムカメラの時代では、コンパクトカメラのオートフォーカスを実現したコニカと、一眼レフのオートフォーカスを実現したミノルタが合併した老舗メーカーである。
■コニカミノルタでの調査・研究
コニカミノルタではエンドユーザーのサポートに力を入れていて、イメージング文化研究所という調査研究部門で写真文化の研究を行っていた。その研究所からお誘いを受けて、写真文化に関わる共同研究を行ったことがある。
所長からフィルムカメラ時代の貴重なエピソードなどをお聞きしたので、別の機会に紹介しようと思っている。他にも研究員の方や他の部署の方々から色々役立つお話をお聞きした。研究を受け継ぐ形で僕の授業でも写真文化に関する調査研究を7年間続けてきたのだが、(写真学科の)少数の偉い先生がお気に召さなかったようで、写真文化に関わる研究と授業は打ち切りになってしまった。あと3年続けていられれば、1990年代終盤から2000年代初頭にかけての、フィルムからデジタルに移行する時期の の写真文化について役立つ研究が成果としてまとめられたのに、偉い先生方は、学生たちに《芸術性》を求めることに神領区していたようで、エンドユーザーの文化的な変化には興味がなかったんだろうなぁ(ひねくれ者の僕としては、末端のユーザーの動向こそ、アートの本質に迫る…と、思っているんだけれど)。
コニカミノルタではエンドユーザーのサポートに力を入れていて、イメージング文化研究所という調査研究部門で写真文化の研究を行っていた。その研究所からお誘いを受けて、写真文化に関わる共同研究を行ったことがある。
所長からフィルムカメラ時代の貴重なエピソードなどをお聞きしたので、別の機会に紹介しようと思っている。他にも研究員の方や他の部署の方々から色々役立つお話をお聞きした。研究を受け継ぐ形で僕の授業でも写真文化に関する調査研究を7年間続けてきたのだが、(写真学科の)少数の偉い先生がお気に召さなかったようで、写真文化に関わる研究と授業は打ち切りになってしまった。あと3年続けていられれば、1990年代終盤から2000年代初頭にかけての、フィルムからデジタルに移行する時期の の写真文化について役立つ研究が成果としてまとめられたのに、偉い先生方は、学生たちに《芸術性》を求めることに神領区していたようで、エンドユーザーの文化的な変化には興味がなかったんだろうなぁ(ひねくれ者の僕としては、末端のユーザーの動向こそ、アートの本質に迫る…と、思っているんだけれど)。
<コラム>
条件等色を取り上げたきっかけ
数年前のことである。大学で2年生の実習を担当していたとき、1年生では学生の写真作品を教室に展示するという予定を聞いた。インクジェット用紙の経験も浅い1年生に、作品を展示させるのは難しいのじゃないか?と思っていたが、作品を作る楽しさを経験させる狙いと理解し、、進展を見ることにした。
インクジェットプリンタの扱いも、印刷サイズと解像度の関係も理解できていないうちに、教員の用意した用紙でA4判サイズの写真を印刷させる…なかなか大胆な(無謀な)授業である。「怖いな」と思ったが、担当外なので「彼らが2年生になったら、プリンタの扱いなどをじっくり復習させよう」と、そう考えるよりなかった。
パソコンというのは便利なもので、画像の解像度について何も知らなくても、なんとかカラー画像を印刷できてしまうから不思議だ。ただ、結果として指示通りの「作新」が印刷できただけで、仕組みや理屈はわからいままだったろう。
展示を見て驚いた。解像度とかプリンタの扱いとか、そういったことはさておいて、学生の作品を展示している照明環境に驚愕したのだ。
教室全体が蛍光灯で照らされている…ならよいのだが、角の暗い箇所になんと500ワットのタングステン電球が取り付けてあった。中央部分は昼光色の蛍光灯、隅っこはいわゆる裸電球のオレンジ色の光で照らされている!
腰が砕けそうになった。蛍光灯で照らされているのは、設備の都合上仕方ないとして、暗くなった箇所をタングステン光で照らすとは…光がごちゃごちゃ、はちゃめちゃでカオスな照明環境である。
撮影時にクリップオンタイプのストロボを知識も詳しく説明していないことに実習の不安を感じていたのだが、作品の展示にも驚きの問題を抱えていた。学生より先に教員を教育しなければ…条件等色を取り上げるきっかけのひとつである。
■プリントの条件等色
光の質と素材によって元の色と異なる色が目に届く…という条件等色、店舗の肉や衣類などを例に説明してきたが、それら日常目にするものの他、プリンタで出力した結果にも影響が及ぶ。
光の質と素材によって元の色と異なる色が目に届く…という条件等色、店舗の肉や衣類などを例に説明してきたが、それら日常目にするものの他、プリンタで出力した結果にも影響が及ぶ。
インクジェットプリンタで出力されたインクは、プリント用紙に吹き付けられる。それを見るときには環境光で照らされて、その反射光が目に届く。食品や服を見るのと同じ過程で色を見ているのだ。ただインクが塗布される場所印刷用紙であって、布や革ではない…色を表示する素材がプリント用紙だけだという点が異なる。
蛍光灯で照らされた教室で風景写真の空の色が「濁ったような青」に見えた話をした。ファインダーで見たときにはもっとスキッとした青だったはずなのに、プリンタで印刷した結果はやや濁った色になってしまう。
撮影時の色と見比べれば気づくかもしれないが、印刷結果を見るときには撮影時の空と見比べる機会はないので「空はこのような色だ」と、無意識に暗示を受けていないだろうか。実際に目に届いた色とカメラで捉えて印刷した画像の色とを比較することは稀なので、プリント結果の条件等色など意識の外なのだと思う。
現実世界の服やバッグと同じで、プリントした画像も環境光による条件等色の影響を受ける。これは実際に目に届いた色の情報と、そのばで感じ取った風景の印象との差異という問題とも関わってくる。
環境光と色の話の次は、印象によって生成された色と実際に目に届いた色との差異、映像出力~ディスプレイとプリンタの出力と色との問題などを考えようと思う。
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by horonekop
| 2023-05-07 19:26
| 画像技術